在宅介護の悩み・シチュエーション

認知症の親が薬を飲まない|ケアマネが教える原因と、在宅で続けられる服薬管理の方法

自宅のダイニングで50代の娘と高齢の母親がお薬カレンダーを一緒に確認している穏やかな場面

「お母さん、また薬が残ってる…」

そう気づいたとき、胸がズキッとした経験はありませんか?

担当していた利用者の娘さんから、定期訪問でこんな相談をされます。

「薬が10日分も残ってたんです。本人は毎日飲んだって言い張ってて…どうしたらいいか分からなくて」

認知症による服薬管理は、家族介護の中でも「引っ掛かりになる」悩みのひとつです。

毎日のことだから、頭の片隅にずっと残るんですよね。

あなたは十分にやっています。

この記事では、現役ケアマネの視点から「なぜ飲まないのか」の原因と、介護保険でできること・できないこと、そして在宅で無理なく、家族が続けられる服薬管理の具体的な対策をお伝えします。

やれるだけ、できないことは致し方ない。
そんな割り切りも持って、ぜひ最後まで読んでいってください。

なぜ認知症の親は薬を飲まないのか|3つの理由

「家族を困らせたくて飲まないわけじゃない」——これが大前提です。

認知症状のある方が薬を飲まない・飲めない背景には、必ず理由があります。
現場で見てきた3つをお伝えします。

①飲んだことを忘れてしまう(記憶障害)

認知症の中核症状のひとつに「短期記憶の低下」があります。

5分前に「薬を飲んだこと」が、記憶に残りません。
5分前に「支度しといて」と伝えたことが、記憶に残りません。
5分前に「明日、病院だよ」と話したことが、記憶に残りません。

だから「飲んでいない」のではなく、本人の中では「飲んだかどうか分からない」状態なんです。

さらに厄介なのが、「飲んだのに、飲んでない」というとき。
記憶が曖昧なまま「飲んでない気がする…」と感じて、二重服薬してしまうこともあります。

これは本人の意志の問題ではなく、脳の機能の問題です。責めても解決しません。

②「なんで飲むの?」という病識のなさ

認知症が進むと、自分が病気だという認識(病識)が薄れていきます。

「私はどこも悪くない。なんでこんな薬を飲まないといけないの?」

この言葉を言われて、深く傷ついたり、イライラする家族をたくさん見てきました。

本人にとっては、薬を飲む理由が見当たらないんです。だから飲まない。それだけのことなんです。

でも、介護をしている家族からしたら、飲んでもらわないと安心できないし、介護をサボってるように感じてしまいます。

なんとなく、本人に病識が無いとわかっていても、家族は複雑な心境になるんですよね。

③薬が飲めない身体的な理由による拒否感

見落とされやすいのが、この理由です。

錠剤が多い・大きい・苦い・飲み込みにくい。

高齢になると嚥下(えんげ)機能が低下します。

薬を飲むこと自体がしんどくなっているのに、「嫌だ」と言葉にできない方がいます。

「飲みたくない」ではなく「飲めない」のに、家族には「また拒否してる」と映ってしまう。

すれ違いが積み重なって、お互いに消耗していくんです。

 

「毎回確認すればいい」だけでは解決しない、介護する家族の現実

無理に飲ませることはできない

ケアマネとしてはっきり言います。

薬を確実に飲んでもらう方法はありません。

認知症の方は、言葉の内容より「感情」を敏感に感じ取ります。

怒った顔・強い口調・手を掴む動作——これらが「怖い人が来た」という記憶に残ります。

認知症の七不思議のひとつなんですが、相手が怒っているの理由は忘れてしまうのに、怒られている感情は心の記憶に残るんです。

そのせいで、BPSD(行動・心理症状)という、まわりに悪影響を与える症状が悪化します。

徘徊・暴言・拒絶が強まり、かえって介護が難しくなってしまうんです。

仕事・家事・育児をしながら「毎朝同じ時間に確認」は構造的に無理

離れて暮らしている場合はなおさらです。

「毎朝電話して確認してます」とおっしゃる娘さんも多いですが、電話口で「飲んだよ」と言われたら確認できません。実際には飲んでいないことも多いんです。

仕事・家事・育児を抱えながら、毎日同じ時間に親の家へ行くことは現実的ではない。それでも「私がやらなきゃ」と思い続けて、限界を迎えているあなたはとても頑張っています。

構造的に無理な状況に置かれているので長く続けることは現実的ではありません。

だからといって、なにも手段がないのかというと、そうではありません。

少ない費用で、効果が期待できる服薬管理があります。

介護保険でできる服薬管理|対応できること・できないこと

ヘルパーによる服薬確認とは何か

訪問介護のヘルパーは、服薬の「確認」をすることができます。

薬が手元にあるかを確認する・飲む場面に立ち会う・飲み忘れを家族に報告する、服薬管理ノートに記載する。——これらは訪問介護の業務の範囲内です。

ただし「強制」はできません。

薬を無理やり口に入れる介護は、いくらプロのヘルパーでもできないことは覚えておきましょう。

それでもヘルパーは「介護のプロ」です。できる限り飲み忘れがないよう工夫を提案してくれたり、仕組みを考えてくれます。

週に数回しか来られない現実

介護保険には「持ち点数」があります。

要介護度によって使える上限が決まっていて、毎朝ヘルパーに来てもらいたくても、持ち点数の壁により、週1回や週3回しか使えないケースもあります。

介護保険は万能ではないところがケアマネとしてももどかしいところです。

訪問看護なら医療と連携できるが…

より医療的なサポートが必要な場合は、訪問看護という選択肢もあります。

看護師が訪問して服薬管理を行うことができ、医師との連携を取ってくれます。

ただし、利用には医師の書類(指示書)が必要です。医師が病気・症状・生活などをみて判断するため、すべての方に使えるわけではありません。

「訪問看護を頼みたい」と思ったら、まずはかかりつけ医かケアマネに相談してみてください。

介護保険の限界を補うために、まずケアマネに相談してほしい

「保険外で対応してくれる訪問介護事業所があるかもしれない」と聞いたことがある方もいるかもしれません。

実際に、30分単位の自費サービスを提供している事業所は存在します。ただし、対応しているかどうかは事業所によってまったく異なります。自分で探すのはかなり大変です。

そんなとき、一番頼りになるのが担当のケアマネジャーへの相談です。

「薬の飲み忘れが続いていて困っている」と伝えるだけで、地域の対応事業所を調べてくれたり、訪問薬剤師や訪問看護との連携を提案してくれたりします。ケアマネはそのための存在です。遠慮なく頼ってください。

ケアマネへの相談について、詳しくはこちらの記事も参考にしてみてください。

まだ要介護認定を受けていない場合は、まず申請から

「親がまだ介護保険を使っていない」という場合は、まず要介護認定の申請が必要です。

認定を受けることで、ヘルパーやケアマネのサポートを受けられるようになります。「うちの親はそこまでじゃない」と思っていても、認定を受けてみると意外と介護度がついてびっくりするケースも現場ではよくあります。

申請の流れについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

服薬管理を少しでも楽にする道具と工夫

①一包化|まず医師・薬剤師に相談してほしい

複数の薬をまとめて1袋にしてもらう方法です。

「朝1袋・夜1袋」にしたり、「名前入り」「日付の記載」をしてもらうと、飲み忘れや二重服薬のリスクが大幅に減ります。

かかりつけ医や調剤薬局の薬剤師に「一包化をお願いできますか?」と伝えるだけで対応してもらえます。

費用は薬局によって異なりますが、1回数十円程度の加算で済むことがほとんどです。

まだやっていない方は、今すぐ相談してみてください。

②お薬カレンダー|「飲んだかどうか」を目で見て分かるようにする

壁掛けタイプで日付ごとにポケットがあるお薬カレンダーを使うと、「今日の分が残っているかどうか」が一目で分かります。

100円ショップやAmazonでも手に入るので、ぜひ試してください。

置く場所のポイントは「親が毎日必ず目にする場所」です。テレビの横・トイレのドア・冷蔵庫の前など、生活動線上に貼っておくと効果的です。

壁掛け式お薬カレンダーに曜日ごとに薬が入っており、今日の分だけが空になっている服薬管理の様子

③服薬ボックス(ピルケース)|曜日・時間帯で仕切れるタイプが便利

曜日×朝昼夜で仕切られているピルケースを使うと、ヘルパーや家族が「今日の朝の薬が入っているか」を簡単に確認できます。

週に1回まとめてセットしておけば、毎日の手間が大幅に減ります。

一包化と組み合わせると、さらに管理が楽になります。

声かけのコツ|「飲んで」ではなく「一緒にやろう」

声かけの言葉ひとつで、親の反応が変わることがあります。

✕「薬飲んで」(命令形)
◯「お茶入れたから、一緒に飲もうか」(提案形)

好きな飲み物と一緒に出す・食後の流れに自然に組み込む・ヘルパーが来るタイミングに合わせる。

「薬を飲ませる」という構図をなくして、日常の流れに溶け込ませるのがポイントです。

それでも限界を感じたら、一人で抱え込まないでほしい

ここまで読んでくれたあなたに、ケアマネとして伝えたいことがあります。

服薬管理がうまくいかないのは、あなたの努力が足りないからじゃありません。

一人でできることには、限界があります。

毎日続けることの消耗は、やっている本人にしか分からない。

でも、あなたが倒れたら——誰が親の薬を管理できますか?

自分を守ることが、親を守ることに繋がります。

「もう限界かも」と思ったとき、それは助けを求めていいサインです。まず一歩、ケアマネに相談してみてください。^^


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