日本では65歳以上の4人に一人が認知症になる可能性があります。認知症の症状は少しずつ認知されてきている印象を受けますが認知症となった人が受け入れられやすい社会、生活とはまだまだ言い難いのではないでしょうか。そんな現状を解決できるかもしれない認知症ケアが【ユマニチュード】という認知症ケアです。フランスの二人の体育学の専門家、イヴ・ジネストさん、ロゼット・マレスコッティさんが開発したケアの技法です。『その人の能力を奪わない』を目的に〝見る〟〝話す〟〝触れる〟〝立つ〟この四つの要素に分けたケアを一つの物語のように一連の手順で構成させたケア・コミュニケーションを編み出しました。
TBS NEWSでこの【ユマニチュード】が取り上げられていました。この報道を見て筆者が感じた【ユマニチュード】の感想、考えをまとめてみましたので是非最後まで見てください。
4つの柱
『見る』技術
正面から相手を見ます。横からではなく正面です。同じ目線でいること。相手が車椅子に乗っているならしゃがんで、ベッドに寝ているのなら相手と同じ目線になるような工夫を。相手と平等の存在であることを伝えます。
『話す』技術
おむつ交換、口腔ケアなどに入る際、「すぐ終わりますからね〜 じっとしててね〜」といった命令のような言葉がけではダメです。仕事としてではありますが相手のことを大切な存在と思い言葉をかけます。この時のポイントはこちらが明るい表情をして話しかけることです。
『触れる』技術
見て、話した次は相手の反応を見ながら膝を摩ったり、肩に手をそっと置いたり、手を握ったりと優しく触れます。相手を刺激しないように優しく触れることが大切です。
「立つ」技術
立つことによって体のさまざまな整理機能が十分に働くようにできています。車椅子に乗っている認知症の人が何度も立ちあがろうとするのは、歩くことができないと理解できていないこともあるかもしれませんが、人間らしさを保とうとする表れのひとつかもしれません。理学療法士、作業療法士などリハビリ専門職と連携して1日合計20分は立つ時間を作るよにすると能力は保たれるみたいです。
介護職員も涙
イヴ・ジネストさんが日本の特別養護老人ホームに訪問。右半身麻痺のある男性利用者さん。最近、介護職員へ怒鳴ったり、手を上げるなど認知症状が見られてきました。イヴ・ジネストさんは〝見る〟〝話す〟〝触れる〟〝立つ〟を自然に行い、今までほとんど立つことがなかった男性利用者さんが支えられながら少しずつ歩き始めました。今まで介護職員を困らせていた男性利用者でしたが、その姿をみた介護職員の一人が涙を流していました。
イヴ・ジネストさんは【ユマニチュード】を認知症の人との人間関係、絆を作るテクニックであり、「あなたの友人ですよ 仲間ですよ」と認知症のひとに感じてもらうには〝見る〟〝話す〟〝触れる〟この三つの行動で伝えることが大切。つまりは優しさを伝える技術ということです。と話します。
抵抗ばかりだったの男性が
妻の他界をきっかけに認知症を発症し、感情のコントロールが難しくなり家中のものを壊したりするようになっていました。足を骨折し病院へ入院。両手にはミトン、体には身体拘束のベルトをしています。口腔ケアに三人の看護師が入ります。優しい言葉がけで口腔ケアに入ることを説明しますがなかなか口を開きませんでした。少しむりに行おうとすると怒ります。おむつ交換中も声をあげて怒っていました。看護師の方はどのように接したらいいのかわからないと正直に話してくれていました。
【ユマニチュード】の指導を受けた看護師があらためて男性のケアに入ります。
病室のドアはまずノックして入室。男性は人が来ることに気づきました。目線は同じに、優しく話しかけ、触れます。この時点で先ほどとは全く違う、良い反応を男性を見せています。イブ・ジネストさんが男性と対面。ここでも〝見る〟〝話す〟〝触れる〟を行い男性にしている身体拘束を解除しました。そして今後は〝立つ〟ことをし歩いてもらいました。入院してから寝たきりだった男性が歩くことができたのです。
先ほど、できなかった口腔ケア。「口を大きく開けて」と男性に丁寧に優しく声をかけると、抵抗なく口を開け口腔ケアを受け入れ、さらには「さっぱりしました」と笑顔で看護師の手を握っていました。
まとめ
認知症になると話したことをすぐに忘れる。食べたことをすぐに忘れる。話したことを理解していない。会話が成立しないなど。看護師、介護福祉士でもうまくコミュニケーションが取りにくくなります。介護する側もスムーズいかないことにイライラし無理矢理な看護(身体拘束)、介護をしてしまう現状があります。
認知症の人は物事、出来事の記憶が不得意になってきても感情の記憶は残る、機能は働いていると言われます。筆者も特別養護老人ホームで介護福祉士として介護にあたっている時、短い時間の介護でも感情を込めて介護をしたときはなんの抵抗もなく行えたことがありました。
認知症の人を心の底から同じ人である、人として接していると訴えながら看護、介護をする。業務時間や今までのやり方を考えるとなかなか実践できないことですが私たちが看護、介護をいているのは『人』であるということをいつも認識しなくてはいけませんね。
【ユマニチュード】は認知症の人を人として認めて4つの柱を意識して接する。あなたを人として認めてる、こちらは敵でない、友人、味方であると感情に訴える。その人の持つ能力を奪わないで、人間らしさを取り戻す。看護、介護は仕事として関わることですが、認知症の人へ、なによりも心で接することで人間らしいコミュニケーションが取れるようになるのだとあらためて感じました。業務の時間、人手不足など時間をかけることのできない課題はたくさんありますが人が人として接しない看護、介護が解決できるようにこの技法を広げていきたいと思いました。